顎がはずれたら|元町歯科診療所のコラム

診療予約はこちら

menu

コラム

顎がはずれたら

いわゆる「顎がはずれた」とは「顎関節脱臼」といいます.

顎関節では関節包,関節靭帯,下顎頭などが異常な顎運動を阻止するよう構成されています.これらの構成体の形態変化あるいは機能低下とともに,生理的関節可動域をこえるような運動を強制され,関節面が正常な相対的位置を失い,下顎頭の転位を起こしたものを顎関節脱臼と定義します.

脱臼の分類として

1)両側性,片側性

2)前方,後方,側方,上方

3)新鮮,陳旧性

4)単純,習慣性,などがあります.

顎関節脱臼のほとんどは前方脱臼で,その原因はあくびや全身麻酔の挿管時や歯科治療時の大開口が直接の原因です.顎関節のX線撮影で脱臼は診断できますが,臨床経過や口が閉じられない,顎関節部がくぼんで間延びした顔貌という特徴的な所見だけでも診断は可能です.

なお,臼歯部の欠損が放置されている患者さんや無歯顎の患者さん.高齢者では下顎頭の吸収や関節窩の浅化などの変形をきたし,脱臼が発症しやすくなるといわれます.また,脳血管疾患を有する患者さんやパーキンソン症候群の患者さんでは咀嚼筋の協調運動がスムーズにおこなわれずに,脱臼を起こしやすくなることが知られています.

脱臼の新鮮例は後述のヒポクラテス法を用いることで比較的容易に徒手で整復するが可能ですが,脱臼後1週間以上経過した陳旧性症例では.関節窩の線維化や筋の拘縮を起こし,整復が困難になります.そのため,全身麻酔による観血的整復が必要になることもあります.認知症や寝たきりの患者さんでは意思疎通をうまく図ることができず介護者が脱臼に気づかず,陳旧性の脱臼になってしまうこともあります.私も過去に口が乾いて粘膜から出血するのでみて欲しいと頼まれ,診察すると脱臼して口が閉じられないのが原因であったケースに遭遇したことがあります.

習慣性脱臼では再脱臼防止の処置も必要になるため,弾力包帯をもちいた開口制限をくわえたり,顎関節への自己血注入,外科的手術などを行います.

最後に偉大な古代ギリシアの医学者である,ヒポクラテスが記した前方脱臼の整復法であるヒポクラテス(Hippocrates)法を記載しておきます.

方法:術者は患者の前方に立ちます.患者には椅子にかけさせ頭部をしっかりと固定.両側拇指を下顎後臼歯部に置き,他の4指で下顎骨体部下縁を保持します.

拇指で下顎臼歯部を押し下げて下顎頭を下げると同時に他の4指でオトガイを持ち上げ,オトガイが上方に回転運動するような力を加え,かつ下顎を後方に押しつけて患者に閉口を指示すると,手ごたえとともに復位します.

ポイントは下顎を後下方に軽く押し下げるとともに患者さんに口を閉じてもらうように指示することです.(決して力はいりません)復位とともに指を噛まれることがあるので,術者は指にガーゼを巻いて指を保護するようにしておきます.整復後は1週間程度あくびや大開口を避けるように指示しておきます.

陳旧性は整復困難なことが多いので口腔外科での処置が必要になることが多いです.