フッ素の応用について
フッ化物にう蝕抵抗性があることは,1938年に米国コロラドスプリングスにおいて「コロラドステイン」といわれる歯に白斑や着色のある歯(斑状歯)を有する人たちにう蝕が少ないことが判明し,この斑状歯(歯のフッ素症)は飲料水中のフッ化物に起因することが明らかになったことによります.この後,う蝕予防に至適なフッ素濃度の研究が多くなされ,今日のフッ化物による安全なう蝕予防の確立に至っています.
そもそも,フッ素とは原子番号 9の元素で,元素記号は Fで表記されます.フッ素は食品にも含まれており,魚介類,海草(2〜10ppm程度)に多く含まれ,芝エビ,めざし(30〜50ppm),肉類(0.8〜2.0ppm)となっ ています.植物性食品ではフッ素は少ないですが,緑茶だけは別で,茶葉には200〜500ppmと多く含まれています.しかし,日常飲用するお茶ではフッ素濃度は低く,0.2〜0.7ppm程度です.紅茶にも同程度のフッ素が含まれています.日本の成人では毎日約0.5mg程度のフッ素を摂取していると言われています.
う蝕予防におけるフッ化物の効果は大きくわけて3つあります.①再石灰化の促進,②再石灰化の際にフルオロアパタイトを形成し,より耐酸性の高い歯質にする耐酸性の向上,③細菌に対する直接作用です.その中でも特に重要と考えられるものは再石灰化の促進とフルオロアパタイトの形成です.細菌に関しては,フッ素イオンの存在下でプラーク中のpHが低下すると,水素イオンとフッ素イオンが結合し,細菌の細胞壁を通過して,細胞内に容易に移動します.これが菌内の酵素を阻害することで酸の酸性が抑制されます.乳歯や幼弱永久歯が歯質が未成熟,小窩裂溝が深く複雑,清掃が不充分になりやすいなどの理由でう蝕になりやすいため,フッ素の有効利用が効果的になります.
我が国におけるフッ化物によるう蝕予防の柱は大きく3つにわけられ,①歯科医院における高濃度フッ化物歯面塗布,②フッ化物洗口,③フッ化物配合歯磨剤の利用,になります.これらを組み合わせて用いることがより効果的になります.今回はその中でも①,②についてお話させていただきたいとおもいます.
①に関してはうがいができない3歳ぐらいまでの子供が中心になりますが,成人でもう蝕リスクの高い人におこなったほうがよいとされています.概ね6か月に1回程度以上施行することが推奨されます.
歯科医院におけるフッ素塗布では約20〜35%の予防効果が期待されます(ただし,年数回の塗布).
②に関してですが,佐賀県では平成26年には保育所,幼稚園で74%,公立小学校で100%の施設でフッ化物による洗口がおこなわれています.これは佐賀県は3歳児のdmft(乳歯う蝕歯)指数が全国ワースト1位を継続していた(平成2年〜11年)ため,行政が積極的にフッ化物応用を取り入れるプロジェクトを開始したことによります.特にフッ化物洗口は,年度ごとの目標値を定め,事業を展開しました.結果12歳児のDMFT(永久歯う蝕歯)指数は平成25年には47都道県中8位になっています.
フッ化物洗口をおこなう場合,2年間で20〜35%,5年間で50%程度のう蝕予防効果が期待されます. (但し,歯の表面にばい菌が作るバイオフィルムがあるとフッ素の効果が十分に発揮できないため,洗口前に必ず歯磨きをおこなっておく必要があります)
フッ化物歯面塗布は自費診療の場合,当院では800円となっています.(再診料別)