歯性の炎症について
本日は急患で重症の炎症の患者さんがお見えになりました.入院も考慮しないといけないような重症の炎症でしたので,入院施設のある歯科口腔外科に紹介しました.今回は歯が原因でおこりうる重症の炎症性疾患について説明します.
歯性の炎症の多くはむし歯や治療途中の歯を放置したままになることで,骨の中に病変ができ,それがどの方向に波及するかで症状がきまってきます.軽度では口の中の歯ぐきが腫れて,痛みや熱をもつ程度ですが(それでも十分につらい症状ですが),重症化すると口が開かない,飲み込む時の痛みがある,顎の下が腫れてくる,高熱,全身倦怠感のような症状を伴います.
図に炎症がどの方向に広がっていくのかというルートとその場合の診断名を示しています.骨の中に向かって広がれば骨髄炎という診断に至りますし,顎下隙に波及し,膿瘍を形成すればすれば顎下隙膿瘍といった診断になります.炎症が波及しやすい部位とおおよその症状は以下のとおりです.
舌下隙 Sublingual space
顎舌骨筋線よりも上で,下顎骨体とオトガイ舌筋に囲まれた組織隙で舌下隙・顎下隙・咀嚼筋隙と交通します.舌下隙に炎症が波及すると,口底部の発赤・腫脹,二重舌を呈します.
オトガイ下隙 Submental space
左右の顎二腹筋前腹と舌骨体で囲まれた三角形の領域で,上方は顎舌骨筋下面,下方は深頸筋膜浅層.顎下隙と交通します.オトガイ下隙に炎症が波及すると,オトガイ〜前頸部の発赤・腫脹を呈します.
顎下隙 Submandibular space
下顎骨体内側下方で顎舌骨筋より下部,顎下腺と顎下リンパ節の存在する組織隙.舌下隙・オトガイ下隙・咀嚼筋隙と交通します.顎下隙に炎症が波及すると,患側下顎下縁から上頸部の発赤・腫脹,開口障害を呈します.
頬隙 Buccal space
頬筋と咬筋の間にある脂肪組織に富んだ部分で,上方は頬骨側頭隙,後方は咀嚼隙と交通します.頬隙に炎症が波及すると,顔面頬部の発赤・腫脹を生じますが,開口障害は軽度です.
咀嚼筋隙 Masticator space
咀嚼筋隙には下顎枝と咀嚼筋,三叉神経第3枝が含まれており,いわゆる下顎体隙と翼突下顎隙を含みます.下顎体隙頬骨弓より上で側頭隙ともいいます.顎下隙,舌下隙,傍咽頭隙と交通します.咀嚼筋隙に炎症が波及すると,頬部の腫脹や強度の開口障害を呈します.
傍(副)咽頭間隙 Parapharngeal space
内側翼突内面と咽頭収縮筋,後方は頸動脈鞘の間で囲まれた部分.顎下隙や咀嚼筋隙と交通します.傍咽頭隙間が波及すると,強度の開口障害,嚥下痛,口蓋弓,軟口蓋の発赤・腫脹を呈します.気道閉塞をきたすこともあり,注意を要します.
ほとんどの炎症は口の中の腫れを伴っていることが多いのですが,下顎第二大臼歯より後方の歯(親知らず)は解剖学的な問題から口の中にほとんど症状がでずに,いきなり,顎の下や喉のほうに炎症が波及することもありますので要注意です.
季節の変わり目や年末などの疲れがちな時期に急性の炎症でお見えになる患者さんは多いです.早め早めの受診をおすすめします.