日本口腔外科学会九州地方会参加〜頸部壊死性筋膜炎について
先日鹿児島で開催された第85回日本口腔外科学会九州地方会に参加し,「頸部壊死性筋膜炎の1例(発表者:久留米大学医学部歯科口腔医療センター 坂田先生)」の共同演者として発表いたしました.
壊死性筋膜炎とは,筋膜や皮下組織の急激な壊死を特徴とする重症感染症で,四肢や会陰部に比較的多く報告されています.頸部に発症するのは比較的まれですが,頸部に発症した場合,迅速に適切な対応がなされなければ多臓器不全や敗血症に移行する致死的な疾患であり,早期診断,早期治療が非常に重要です.
頸部壊死性筋膜炎とは広範な筋膜の壊死および周囲組織の壊死をともなう重症感染症で,従来はガス壊疽と混同され扱われてきた疾患です.
壊死性筋膜炎は原因菌として嫌気性菌を含む混合感染のタイプ1,A群β溶連菌(いわゆる人食いバクテリア)によるタイプ2に大別されますが,そのうち7割がタイプ1であるといわれます.
発症は通常中年の男性に多く,糖尿病やアルコール中毒,ヘビースモーカーなどの基礎疾患のある人に発症しやすいといわれていますが,近年は若年者,基礎疾患のない人でも発症の報告があります.原因として歯性感染症,ついで咽頭炎があげられます.
診断にあたってはCTが有効とする報告が多くありますが,ガス産生のない壊死性筋膜炎の診断は困難な場合があります.近年,壊死性筋膜炎の診断にLRINEC(Laboratory Risk Indicator for Necrotizing Fasciitis) scoreの算定(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsswc/5/1/5_22/_pdf)が診断にあたって有効する報告が多数あり,自験例でもscore8点と壊死性筋膜炎の診断が可能でした.
早期の外科処置が必要とされており,入院から24時間以内に外科処置を施行しない場合,死亡率が有意に上昇するといわれています.
自験例は中年男性に生じた症例で,上顎の智歯が原因と考えられたケースでした.久留米大学病院に入院し,歯科口腔医療センターと感染制御部,皮膚科との連携により対処しました.頸部の皮膚壊死部には植皮を要しましたが,それ以外は重篤な後遺症なく回復しえました.